実用新案権に基づく「警告」の中には近年悪質なケースも見られます。
本記事では、平成6年以降の実用新案制度の仕組みと、私が経験した悪質な警告及び注意点について解説します。
平成6年以降の実用新案制度とは?
平成6年以前は、小発明は実用新案で、発明は特許権で保護するという扱いでした。
しかし、平成6年以降は実用新案には実体審査が無くなりました。
これをざっくり言うと、住所を書くところに住所を書き、名前を書くところに名前を書けば、技術的な内容は基本的にはチェックされることなく登録になります。
この事実は、知財業界以外の人にとってはかなりの驚きではないでしょうか?
実用新案-警告と技術評価書の関係
このように実用新案権は審査を経ていない空っぽの権利なので、他人に「私の権利範囲だからその商品の販売をやめろ!」と警告をする場合には、まず特許庁に技術評価書を請求する必要があります。
その技術評価書が良い評価で初めて他人に警告をすることができます。
それを怠ると、実用新案権者は逆に相手から損害賠償請求をされてしまいます。
一方、良い評価の技術評価書を得られるような実用新案権であれば、そもそも特許出願しても特許権を取得できる可能性は高いです。
現在の実用新案はこのような制度であるので、実用新案登録出願の数は少なくなりましたし、実用新案権に基づいて警告を行うことは普通はなかなかありません。
実用新案権に基づく警告を受けたという相談
ところが、実用新案権に基づいて警告を受けたとの相談が弊所にありました。
相談者と実用新案権者は何往復かメッセージのやり取りをしているのですが、実用新案権者の主張は以下の通りです。
1.まだ技術評価書を取得していない
2.あくまでもこの連絡は警告ではない
3.あなた(相談者)の販売開始は実用新案登録出願よりも後だから、あなたには先使用権は無い
4.訴訟になるとお互いに時間と金が掛かる
5.お互いのためにライセンス料を払っていただき穏便に済ませようじゃないか
6.素直に金を払わないなら特許庁に判定請求してあなたの商品が私の権利内であることを確認するぞ
そして、その実用新案権を確認すると権利範囲は非常に広いものでした。
※但し、広すぎて新規性・進歩性の要件はクリアしないと思われる
制度を理解した上での強気な主張?
ここで、実用新案権に基づく警告が来る場合、その実用新案権者の知識や行動としては以下の2つのパターンのはずです。
(1)制度を理解していないため強気に出るタイプ
(2)制度を理解しているため強気には出ないタイプ
しかし、この実用新案権者の言動から
・技術評価書
・警告によるブーメランの損害賠償請求
・先使用権
・判定
のことを理解していることがわかります。
その上で強気です。
意味が全くわかりません。
ここで、判定では権利の有効性については判断されず、対象物がその技術的範囲(権利範囲)に入るか否かの判断のみになります。
つまり、無効理由がもりもりあるような広い権利を求めている実用新案権に対して判定請求をしても、特許庁から「この対象物はこの実用新案権の権利範囲内です!!」という結果が出てしまいます。
だからこそ、法律上は警告の前には技術評価書の請求が必須となっています。
今回警告してきた人もおそらくよく制度をわかった上で「判定請求するぞ」と言ってきてると、段々わかってきました。
非常に広い権利範囲の実用新案権だから間違いなく技術的範囲に入るので、それでビビらせて金を取ろうとしていて、評価書請求せずに終わらせようとしてるんです。
つまり、不当に警告された相手が弁理士に相談することなくビビって泣き寝入りしてお金を払うことを期待しているのだと思われます。
実用新案権者の悪質な行動パターン
私が予想する、実用新案権に基づく悪質な警告をしてくる人の行動は以下の通りです。
1.人気があり複数の会社・個人が製造・販売している商品に目をつける
2.その商品について実用新案権を取得する
3.自分の実用新案登録出願よりも後から製造販売した人に対して警告を行う(脅す)
4.判定請求をして技術的範囲内であるお墨付きを特許庁からもらう(オプション)
5.警告した相手から技術評価書のことを指摘されたら諦め、弁理士に相談せず泣き寝入りしてくれたらお金を取る
こう書いてみると本当にタチが悪いですね。
素人ではこのようなことを思いつかないので、もしかしたらバックにはかなり知識のある人がいるのかもしれません。
警告をされるととても不安になります。
しかし実際には、きちんと制度を理解すれば、相手の脅しに屈する必要がないケースも多くあります。
「本当にお金を支払うべきなのか?」
「無視しても大丈夫なのか?」
「実用新案は審査が無いらしいけど、自分に降り掛かったパターンでも本当に気にしなくていいの?」
そんな不安を一人で抱え込む前に、特許や実用新案に基づく警告に困ったらまずは専門家にご相談ください。
松本特許事務所では、現状を丁寧にヒアリングし、事案に合わせて最も適切な対応方針をご提案いたします。
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