結論を言うと、商標登録できる名前であっても、ビジネス上使いやすい名前とは限りません。
同じ商標でも、使用する商品・サービスが似ていなければ、別々の会社がそれぞれ商標登録できることがあります。
しかし、法律上は問題なく併存できても、実際の取引では両者の商品・サービスが同じ場所に現れることがあります。
今回は、マンション業界の方から教えてもらった、2つの「プレミスト」の話です。
大和ハウスとTOTOの「プレミスト」
大和ハウス工業株式会社は、分譲マンションのブランドとして「プレミスト」を使用しています。
同社のウェブサイトでも、「PREMIST」が分譲マンションのブランドとして現在使用されていることを確認できます。
これに関する登録商標が、次のものです。
商標登録第5151923号
商標:プレミスト\PREMIST
商標権者:大和ハウス工業株式会社
一方、TOTO株式会社も、次の「プレミスト」を商標登録しています。
商標登録第5633328号
商標:プレミスト
商標権者:TOTO株式会社
TOTOの「プレミスト」は、洗浄機能付き便座や便器の名前です。
つまり、一方はマンションのブランドで、もう一方はトイレの名前です。
同じ「プレミスト」ですが、使われる商品・サービスが異なるため、それぞれ商標登録されています。
同じ商標でも商品・サービスが違えば登録できる
商標権は、名前だけを無条件に独占する権利ではありません。
「商標」と「その商標を使用する商品・サービス」の組合せで権利の範囲が決まります。
例えば、ある会社が食品について「ABC」を商標登録していても、食品とは関係のないサービスについて、別の会社が「ABC」を登録できることがあります。
このように、商標の審査では、
- 名前同士が似ているか
- 商品・サービス同士が似ているか
の両方が確認されます。
したがって、大和ハウスとTOTOの「プレミスト」が併存していること自体は、商標制度上、不思議なことではありません。
非類似でも実際のビジネスでは同じ場面で使われることも
しかし、商標の審査で商品・サービスが非類似と扱われることと、実際のビジネスで両者が無関係であることは別です。
大和ハウスの「プレミスト」というマンションには、当然ながらトイレが設置されます。
そこへTOTOの製品が納品されれば、大和ハウスの「プレミスト」の中に、TOTOの「プレミスト」が入ることになります。
法律上は異なる商品・サービスに使われる商標であっても、現実には一つの建物の中で両方が使われるわけです。
例えば、マンションの設備について「プレミストを採用しています」と説明された場合、それがマンションブランドを指すのか、トイレを指すのか、文章によってはわかりにくくなるかもしれません。
商品・サービスの区分だけを見ていると、このような重なりには気付きにくいです。
商品の採用場面で問題になったという話
この2つの「プレミスト」について、マンション業界の方から、名称の重複が商品の採用を検討する場面で問題になったことがあると聞きました。
TOTOにとって、大和ハウスは重要な取引先になり得ます。
マンションに設置するトイレとしてTOTO製品が採用されれば、1棟分のまとまった取引になるからです。
しかし、マンションブランドとトイレの名前が同じで混同しかねないため、トイレを採用する側としては扱いにくい場面があったそうです。
なお、この具体的な取引経緯について、私は公表資料では確認できていません。
ただし、取引先のブランドと自社の商品名が同じであれば、営業資料や広告で説明しにくくなることは十分考えられます。
商標権侵害にならなくても、取引先から「この名称は使いにくい」と思われれば、ビジネス上の不利益につながる可能性があります。
私もこの話を聞いて「確かに!」となりましたが、代理人として出願時に気付けたかと言われると、正直なところ自信はありません。
商標調査では同業者だけを見ればよいのか
商標登録の可能性を調べるときは、自社の商品・サービスと同一又は類似する範囲を中心に調査します。
これは、商標登録できるか、他社の商標権を侵害しないかを判断する上では基本となる調査です。
しかし、ネーミングをビジネス全体から考えるのであれば、それだけで十分とは限りません。
特にBtoBの商品では、次のような会社が使っている名称も確認したほうがよい場合があります。
- 主要な顧客
- 自社製品を組み込む完成品メーカー
- 共同でサービスを提供する会社
- 同じ施設内で商品・サービスを提供する会社
これらの会社の商品・サービスは、商標の審査では非類似と扱われるかもしれません。
それでも、実際の商流が近ければ、同じ名前が取引の中でぶつかることがあります。
商標登録できることと、使いやすいことは別
商標を決めるときには、まず自社の商品・サービスと同一又は類似する範囲で先行商標を調べる必要があります。
その上で、ビジネス上重要な取引先が明確であれば、その周辺で同じ名称が使われていないかも確認してみてください。
法律上は問題なく登録できても、営業資料に書きにくい、取引先が採用しにくい、顧客が混乱するといった問題は起こり得ます。
商標登録できるかどうかは重要です。
しかし、取引の中で使いやすい名前かどうかも、ネーミングの段階で少し考えておいたほうがよさそうです。

