今回は、海外から商品を仕入れてAmazonで販売するビジネスモデルを選択している日本のセラーの皆さんに知っておいていただきたい、知的財産(知財)に関するリスクについてお話しします。
「マーケットイン」のビジネスモデルとしてのうまみ
海外製品を直接仕入れて販売するビジネスモデルの最大の魅力は、すでに市場で売れている商品をセレクトできるマーケットインの手法を簡単に実践できる点にあります。
Amazonの売れ筋ランキングやレビューを分析し、人気商品と同じカテゴリーの製品を製造コストの安い海外から仕入れることで、市場調査や製品開発・製造のコストと時間を大幅に削減できます。
このアプローチは特に個人セラーやスモールビジネスの方にとって魅力的です。すでに市場で検証された商品コンセプトを利用できるので、商品が売れないというリスクを最小限に抑えられるためです。
また、自社工場を持っていなくても、海外製品を仕入れることで人気があるカテゴリーの商品を販売することができます。
しかし、この効率的なビジネスモデルには、見過ごされがちな「知的財産リスク」が存在します。
あなたが直面する可能性のある知財リスクとは?
他社の特許権・意匠権侵害のリスク
海外の製造業者の中には、開発コストを抑えるために、または商品を魅力的に見せるために他社製品を参考にした、あるいは完全に模倣した商品を製造しているケースがあります。
「売れている商品に似た製品」を探している場合、その「似ている」という部分に他人の特許権や意匠権があることが少なくありません。
このような商品を日本で販売すると、知らず知らずのうちに日本国内で有効な他社の特許権や意匠権を侵害してしまう可能性があります。
重要ポイント: たとえ自分で製造していなくても、販売者であるあなたが権利侵害の責任を問われることになります。つまり、「マーケットイン」の効率性と「知財リスク」はしばしば表裏一体なのです。
Amazonからの突然の出品停止リスク
特に注意すべき点として、Amazonには知的財産権侵害報告のフォームがあります。このフォームを通じて、特許権者や意匠権者はあなたの出品商品が自社の権利を侵害していると簡単に報告できます。
Amazonはこのような報告を受けると、調査のため即座に該当商品の出品を停止することがあります。
あくまでも出品者数社の経験を聞いた限りの話ですが、Amazonは知的財産権侵害の報告を受けると特許権者や意匠権者を尊重して権利範囲を広く認め(権利範囲を十分に確認せずに??)早期に出品停止という処分を行っているようです。
つまり、Amazonというプラットフォーム内に限ったものですが、裁判所による法的手続きを経ることなく、あなたのビジネスが突然ストップしてしまう可能性があるのです。
また、Amazonは複数回の権利侵害報告を受けたセラーアカウント自体の停止も行うため、そうなると自社の全ての商品販売に影響が及ぶ可能性もあります。
海外企業に頼れない現実
万が一、あなたが販売している商品が他社の知的財産権を侵害していることが判明した場合であっても、海外の仕入れ先企業が責任を取ってくれるケースは非常に稀で、販売した自社が知的財産権侵害の責任を負わなければいけません。
自社防衛の手段がない
自社で商品開発をしていない場合、当然ながらその商品に関する特許出願や意匠登録出願を行うことができません。つまり、他社からの模倣に対して自社を守る手段を持てないというデメリットがあります。
結果として、ビジネスの差別化や長期的な競争力の構築が難しくなります。
「マーケットイン」のうまみを得つつリスクを回避するための具体的なステップ
事前の知財調査を欠かさない
新商品の販売を検討する際には、必ず事前に知財調査を行いましょう。
他社の特許権や意匠権を侵害していないか確認することで、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。市場で人気の商品に似た商品を選ぶ際には特に重要です。
仕入れ商品の”そのまま販売”は避ける
海外の商品提供元から「これを日本で売らないか?」と提案があったしても、そのまま販売するのではなく、自社の意見も入れた設計変更を依頼しましょう。
「マーケットイン」の考え方を活かしつつ、提案された形状・機能そのままではなく、あなたのアイデアを反映させた独自性のある商品にすることが重要です。繰り返しになりますが、海外の仕入れ先企業が故意に他社製品を模倣しているがあるからです。
多少でも設計変更を行うことで、他社からの警告リスクを低減できます。
変更した商品について自社で権利化する
設計変更を加えた商品については、日本国内で特許出願や意匠登録出願を行いましょう。
出願を行い自社が権利化することで、自社商品の保護が可能になり、ビジネスの安定性が増します。
まとめ:「マーケットイン」のうまみを得ながら知財リスクから身を守る
海外企業から商品を仕入れてAmazonで販売するビジネスモデルは、「マーケットイン」の思想に基づいた効率的なアプローチとして、多くのセラーに選ばれています。
市場ニーズを捉えた商品を素早く展開できるとビジネスの成功に大きく近づきます。
しかし、この点を活かしつつ知的財産リスクを理解して、適切な対策を取らなければ、思わぬトラブルに発展する可能性があります。
特にAmazonの知的財産権侵害報告システムは、法的手続きを経ることなく即座にあなたの商品販売を停止させる強力な仕組みであることを忘れないでください。
最も重要なポイント: 海外の商品提供元から「これを日本で売らないか?」と声がかかっても、そのまま日本で販売するのではなく、自分のアイデアも取り入れた設計変更を行うことで、商品提供元から提案があった形状そのものでない状態にすることが大切です。
そして、その変更を加えた商品について、自社で特許や意匠の出願を行っておくことが、ビジネスを長期的に守るために重要です。
(文責:弁理士 松本文彦)