特許の文章はややこしい言葉で書かれているため、慣れていない人にとっては非常に読みにくいものになっています。
しかし、特許公報は技術文献として大変有益ですし、誰でも無料でJ-PlatPatから各社の特許公報にアクセスできるため、技術者は競合他社の特許公報を読まないと損です。
特許公報を少しでも読みやすくなるよう、その構成等を説明します。
公報の目的
特許は公報という形でその内容が公開されます。
なぜ公開されるかというと、公報には技術文献と権利書という2つの側面があるためです。
つまり世の中に対し、技術文献として「既にこのような特許出願がされているから同じ技術について重複研究や重複投資をしたらもったいないよ」と知らしめるためと、権利書として「うちはこんな内容で特許権を取っているから真似すると特許権侵害になるよ」と知らしめるためです。
公報の種類
特許の公報には主に2つあります。
それは公開公報と特許公報であり、基本的には1つの特許出願においてこの2種類の公報が出ます。
今から読もうとしている公報が公開公報なのか、特許公報なのかを把握することがとても重要です。
公開公報
公開公報とは特許出願してから1年半後に公開されるもので、この公開公報の発行の時点で審査請求がされていないことは多いです。
つまり、公開公報の中には将来的に特許権になるものと特許権にならないものの両方が含まれています。
相談者さんから「大変です。競合他社に特許を取られました!」と言われたものを見てみると、それは公開公報だった、ということはよくあります。
そして、公開公報が出た後に審査が行われ、その結果として特許は取れず拒絶査定になっているというパターンも珍しくありません。
上にあるように、例えば特開2017-◯◯◯◯◯◯となっているものが公開公報です。
公開された年と、その後にハイフンがあるものが公開公報だと思ってください。
古い公開公報では、公開された年が西暦ではなく和暦で、例えば特開平6-◯◯◯◯◯◯となっています。
公開公報と特許公報のその他の見分け方としては、上部中央に公開特許公報(A)とありますが、このAが付いているものが公開公報です。
後述する特許公報にはBと付いています。
またここに、「審査請求 未請求」とありますが、この公開公報が出たときに審査請求がなされていないという意味です。
公開公報の発行後に審査請求されたとしても願書のこの記載が書き換えられることはありません。
特許公報
特許権になってからその内容を公開するものです。
多くの場合、審査において拒絶理由が通知され、それを解消するために補正した結果、特許公報における請求の範囲が狭くなります。
つまり、公開公報での特許請求の範囲と、特許公報での特許請求の範囲は大抵の場合、変わっています。
特許公報の請求の範囲には下線が引かれていることがよくありますが、それは補正された箇所であり、そのように補正をしないと特許査定にならなかったということです。
特許第◯◯◯◯◯◯◯号とあるものが特許公報です。
公開公報とは異なり、特許公報では番号の間にハイフンは無く、続き番号になっています。そして、番号の前後に「第」と「号」が付くのも特許公報だけです。
また、特許公報(B)とありますが、このBが付けられているものが特許公報です。
公報の構成
公報には要約、特許請求の範囲、明細書、図面が含まれます。
要約
公開公報の1ページ目にあり、技術内容をざっと確認するために使います。
1ページ目に書かれているからこそ、目について「こんなに広い権利範囲の特許出願がある!」と思いがちですが、要約は特許の権利範囲には全く影響しません。
特許請求の範囲
特許請求の範囲は、請求項1から請求項nまでの請求項で構成されており、各請求項が特許権の権利範囲です。
特許権侵害になるのはどういうとき?
各請求項の文言を全て満たすとその特許権(その請求項)の侵害になります。
よって、他社の特許権を侵害しないかを確認するには特許公報の特許請求の範囲を見る必要があります。
公開公報の特許請求の範囲は、確定した(特許権になった)権利範囲ではありません。
権利範囲の広さ
通常は請求項1の権利範囲が最も広くなっています。
それは、請求項2以降において条件が加えられるためです。
したがって、請求項1を侵害しないなら(請求項1の記載にあてはまらないなら)、請求項2以下の請求項についても侵害しません。
請求項2の末尾が「~請求項1に記載の◯◯」となっていたら、「請求項1+請求項2」が請求項2の範囲です。
請求項3の末尾が「~請求項1又は2に記載の◯◯」となっていたら、請求項2が「~請求項1に記載の◯◯」の場合、請求項3の内容は「請求項1+請求項3」と「請求項1+請求項2+請求項3」の2パターンがあります。
一方、請求項2以下の請求項の文末が「~請求項△に記載の◯◯」となっていないこともあります。
それは独立項といって、請求項1のような扱いとなり、その請求項単独で権利範囲を構成します。
独立項は広い権利範囲の場合が多いので、請求項2以下に独立項が無いか注意する必要があります。
独立項にぶら下がっている請求項2以下の請求項のことを従属項といいます。
明細書
世の中の人達が言う明細書はお金に関する明細が書かれているものですが、特許で明細書と言ったら別の意味になります。
明細書を特許明細書と言ったりもします。
明細書と言ったときに、ややこしいのですが広義の明細書と狭義の明細書があります。
広義の明細書:願書、特許請求の範囲、狭義の明細書、図面、要約
狭義の明細書:願書、特許請求の範囲、図面、要約、以外の部分
法律上の明細書とは狭義の明細書のことなのですが、例えば特許事務所内で「今月中にこの明細書を書かないといけない」と言ったらこれは広義の明細書のことです。
ここでは狭義の明細書を説明します。
まず、ざっくり言うと狭義の明細書は以下のような流れで書かれています。
(1)従来技術
(2)従来技術の問題点・課題
(3)どのような構成にしたおかげで本発明では従来技術の課題を解決したか
(4)本発明の効果(従来技術の課題の裏返し)
これが頭に入っているだけで、多少は明細書を読みやすくなるのではないでしょうか。
明細書には発明の詳細な説明や図面の簡単な説明が含まれます。
発明の詳細な説明
ここは特許請求の範囲を詳細に説明しているだけであり、権利範囲ではありません。
一方、詳細な説明の中から将来補正によって特許請求の範囲に記載されることがある、つまり補正ができる間では詳細な説明に書かれている範囲内で特許の権利範囲が変動するので、その点は注意が必要です。
また、特許請求の範囲で使用している文言の定義を詳細な説明で行っている場合もあるので、特許請求の範囲の書きぶりが理解できないときには詳細な説明の該当範囲を確認してみましょう。
図面
文字通り図面です。
図面が無くても特許権を取れるのですが、理解を助けるため、また将来の補正のため、図面をたくさん用意しておくことは重要です。
最後に
特許公報の特許請求の範囲の記載にさえ気をつければ、公報は非常に有益な技術文献です。
競合他社がどんな特許を出願しているのかしっかり確認し、自社の開発のヒントにしましょう。
詳しくは以下の動画をご確認ください。
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